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畳屋さんの地道な営業活動に感動! 【岩本 亨】

2011/11/07
岩本 亨

マンション住まいながら、畳が好きで、洋室を改装して和室をつくり、寝室にしている。田舎の古い日本家屋で生まれ育ったことに起因しているのだと思う。

 

ひと月ほど前、その和室の畳表を張り替えた。玄関を入ると、青畳の匂いがして、心地好い。

畳を入れて以来、10年近く何の手入れもしてこなかった。さすがに畳表がささくれて、衣服に付いてしまうのが気になり始めていた。

 

そんな二年ほど前のある土曜日のお昼前、電話が鳴った。たまたま受話器を取った私に、50代だろうか?女性の穏やかな声で、「畳屋ですが、和室はありますか?」「何年住んでいますか?」「畳表の張替はされてますか?」とごく自然に聴かれた。ついつい状況を素直に話していた。

 

電話のセールスだと、「隙があれば売り込むぞ!」と言わんばかりに、比較的若い方から掛かってくることが多い。私自身、長く営業に携わっているため、すぐにチェックモードになってしまう。ぞんざいな応対をすることが多く、ろくに話も聞かず、受話器を置くことがほとんどだ。

ところが、この女性は違っていた。聴き方が良かったのだろうか、やさしく諭すような雰囲気も醸していた。その時は、外出直前だったこともあり、それ以上の話はできなかったが、興味があることは伝わったと思う。

 

しばらくするとその電話のことは忘れてしまっていたが、畳の状態はまた徐々に悪化し、気にもなっていた。

半年ほど後、また電話がかかってきた。おなじ女性だった。「その後、如何ですか?」「見積もりは無料だからさせてもらえませんか?」と聞かれたが、その時も時間がなく、連絡先を聞いて電話を切った。

 

そしてまた半年後、「如何ですか?」の電話。「ちょうど、もう限界だなって思っていたんですよ」と答えていた。それからすぐに見積もりをしてもらい、ひと月もたたないうちに、張り替えが完了した。

見積もりをしてくれた職人さんに、この女性のことを尋ねたところ、3人くらいの方が事務仕事の合間を縫って、電話かけをされているとのこと。リストアップは電話帳から。かけて反応のあったお宅を、丁寧にフォローされているようだった。

 

電話営業を経験された方ならお分かりだと思うが、100件電話して2~3件好反応があればよい方で、多くの場合、セールスとわかった途端に切られてしまう。悪くすれば罵声まで浴びせられてしまう・・・。電話を掛ける方も心が荒み、応対に余裕がなくなり、嫌でたまらなくなる。そんな人からもらう電話が、受け手に心地好いわけがなく、悪循環に陥ってしまう。

しかも、次から次へと新しい電話帳を使うため、情報が蓄積されない。それを補完するための様々なソフトウエアも販売されているようだ。

私はそれを否定はしないが、営業の基本は営業担当者が地道な努力を、正しく積み重ねられるかどうかにあると考えている。

 

営業研修で講師をする際も、そんな考え方をベースにお話しする。受講された方のアンケートで、「精神論に過ぎない!」とコメントされることもある。

何か理解してもらうための良い具体例がないものか?と思っていたが、これからは「畳屋さんの営業の女性がね・・・」と説明してみようと思う。

 

今日も帰宅して青畳の匂いを嗅ぎ、その営業の見事さを思い出し、皆さんにもお伝えしたくなった。