自己啓発について(平成30年度年次経済財政報告より) 吉田健司
自己啓発について(平成30年度年次経済財政報告より) 吉田健司
吉田 健司
今回は、内閣府の平成30年度年次経済財政報告(以下白書)より社会人が自己啓発を行うことの効果についての分析を取り上げる。
まず、自己啓発の効果としては、「自己啓発は将来的な年収の増加や就業確率の上昇等につながる」と考えられている。
白書では、①通学(大学・大学院、専門学校、公共職業訓練等)、②通信講座(通信制大学を含む)の受講、③その他(書籍での学習、講演会・セミナー、社内の勉強会等)の3つの内容別にさらに分析している。その概要は次の通りである。
自己啓発が年収に与える影響について、2年後における効果をみると自己啓発の内容によらず意義のある結果となっている。また、就業確率に与える影響(1年後)については、通学とその他でプラスとなっている。特に通学においては就業確率が約36%ポイント高くなるとの結果であり、非常に効果が高いことがうかがえる。
自己啓発の内容別にコスト(時間・金額)の平均値は次の通りである。
通学は効果が大きいが、通信講座やその他と比較してコストが高くなる傾向がある。一方、その他の自己啓発手段については、効果は相対的に小さいものの、特に金額面でのコストは低く済む傾向がある。
では、企業側の評価はどうであろうか。自己啓発を実施した労働者の処遇について、白書の概要は次の通りである。
大きく処遇に反映する方針の企業は6%、ある程度反映する方針の企業は53%で、残り4 割程度の企業は自己啓発を実施しても処遇を変化させないと回答している。4 割程度の企業で働いている就業者にとっては。学び直しを行うインセンティブは非常に小さいことが推察される。
白書では、人的資本投資額は労働生産性に対しプラスの影響を与える可能性が指摘されており、「自己啓発に対する処遇改善とサポート体制を強化することは、企業にとっても、労働者にとってもメリットが大きいことから、自己啓発促進の取組が広がっていくことが期待される。」と述べられている。同感である。